This War of Mine は、戦争の渦中にある一般市民となり、限られた物資や信用できない隣人の中で生き延びることを目的としたゲームです。当初はPC版(Steam)で配信されていましたが、7月にiPad専用でiOS版がリリースされていました。
今回、同ゲームがモバイル(iPhone)に対応しました。それに伴いセールが開催され、本記事の執筆現在840円で購入することができます。私としては元の金額で購入を悩んでいたところだったので、即決で購入しました。
※実際に購入される際は、購入時の請求金額をよくご確認ください。
モバイル対応
さて、スクリーンショットをかねてから見ており分かっていたことなのですが、このゲームはそもそも非常に大画面向きなUIデザインなのです。
上の画像はこのゲームの基本的な画面ですが、キャラクターに対してステージが大きく、アクションを行うことができる場所全てにボタンが表示されるため、これを単純に縮小するだけでは不都合を生じます。
それがモバイル対応することができたということで、一体どのように実現したのか不思議に思っておりましたが…
iPhone 5でこのクオリティです。情報を左に配置したり、アイコン化したりするなどによって、コンパクト化に実現。そもそも画面サイズが小さいために操作性は多少下がりますが、それでも気にならない程度。
ただし、文章の文字が非常に小さくなっていました。Retinaの解像度のおかげで私は十分読めましたが、近くにピントを合わせづらい人は全く読めないかもしれません。
それでも、もう少し画面の大きいiPhone 6系であれば最早文句は無いかもしれません。何よりシステム面でも最適化されており、ラグなども全く出ませんでした。素晴らしいですね。
ゲームプレイ
さて、せっかく初めてプレイしたので、レビューも書き残そうと思います(ここからはiPad miniでプレイしています)。
ゲームは戦争中、数人の主人公がシェルターにいるところから始まります。もちろんこのシェルターも必ず安全ということはなく、寒さや飢え、襲撃などの危険が常に付きまといます。物資を探して必要なものに加工しつつ、泥臭く生き延びるのです。
ところで、読んでいただけると分かる通り、ローカライズはほぼ完璧と言えます。たまに誤字がある程度です。レビューでは日本語がうまく表示できないという報告があったようですが、現在では修正されているようです。
ゲームの流れ
ゲームは、主人公のうちいずれかをタップしてから、行きたい場所やアイコンをタップして指示することによって進めていきます。これによって物資を探したり、邪魔な扉やガレキを壊して行動できる範囲を広げるなどすることができます。
特に上の画像で破線で囲った手のマークは、そこに何らかの物資があることを示します。シェルター内の物資は当然限られていますが、開始早々はこの中を探索してできる限りの物資を集めること。
ただし、必要なことが何でもかんでもできるわけではありません。ガレキをどかすと、当然腹が減る、疲れる、怪我を負う……しかし何もしなければ食料など必要なものは得られない。このゲームでは、常にそういったトレードオフの関係にある選択をし続けなければならないのです。
ゲームはシェルターで過ごす昼パートと、シェルター外を探索することが可能な夜パートがあります。夜は敵のスナイパーに狙われないからです。
シェルター外にも様々なスポットがあります。この中から必要なものを持ち帰れそうな場所を選びますが…多くの物資があるような場所は人間もいるかもしれません。
戦時中なのですからいかなる隣人も信用できません。運がよければ物々交換に応じてくれるかもしれませんが、さもなければ近づいた途端……ということもあり得なくはありません。
もちろん、夜に探索を行った主人公は寝不足になり疲れます。そして主人公ごとに持てる物資のスタック数や足の速さなどのステータスが異なるため、誰を探索に行かせるか、どこに行くか、何を持っていくか(物々交換用の物資か、それとも武器か……)を決めなければなりません。
もちろん攻略上、夜に何もしなくてもかまいません。
初日の夜は、砲撃された別荘へ。住人は逃げるのに必死だったので誰にも会うことはないだろう、という情報通り、ここは無人でした。
必要と思われるものを集めることができますが、もちろん1人の主人公が持てるアイテムの量には限りがあるため、全てを持ち帰ることはできません。今後必要となりそうな道具を作るために資材を持ち帰るか、それともまずは食料か。ここもまた選択……。
一応物資を持ち帰ることができました。初日だから簡単なのですが、戦争が続くほど当然物資は手に入りにくく、その価値は上昇していきます……。
アイテムを入手する
アイテムを入手する方法は、拾う以外にもいくつかあります。まずは物々交換。
夜に行くことができるスポットには、物々交換に応じてくれる人がいる場合があります。非常に不利な条件ではありますが、必要なアイテムを交換することができます。
もし物々交換できるほどのアイテムが無いなら…周りにあるこのアイコンをタップすると、その人の持ち物に干渉できます。
そう、持ち物を窃盗・強奪することも可能なのです。ここで自分のバックパックにアイテムを入れ、入り口まで走りきることができれば、それは自分の持ち物として持ち帰ることができてしまうのです。もちろん攻撃される危険性が非常に高くなります。
無抵抗な人々から物を盗むなどすれば、それだけその主人公の精神に負担がかかります。彼らは犯罪者ではないのです……。
アイテムのクラフト
シェルターに設置するアイテムを、資材からクラフトすることができます。
ベッドや椅子、暖炉など、主人公の体力を温存するために必要不可欠なものから、コンロなど加工品を作成する作業場系のものまで作成できます。
しかし、そのための資材が圧倒的に足りません。1日1個作成できれば良いという程度です。あれば良いものは多数ありますが、クリアするために絶対必要なものはありません。
例えば水を得るために雨水を濾過する器械を作れますが、水は夜にどこかから集めてくれば良いと考えるかもしれません。一体どこに限られた資材を使用すればよいのか、その答えはありません。
ラジオも作成できます。これはプレイに関してヒントを与えてくれる数少ないもので、上の画像だとコーヒーが物々交換に有用そうだということを教えてくれます。
ただし、この情報を得るために電子部品などを使ってラジオを作ったほうが良いのかどうか、ということには、やはり答えはないのです。
多様なイベント
様々なイベントが発生し、それに協力するかどうか、どう対処するかによって運命は大きく変わるかもしれません。
例えば、家に誰か訪問してきます。このイベントでは、前に支援物資が投下されたことを教えてくれた隣人を売り渡すかどうかという判断に迫られます。その場の缶詰などのために恩を仇で返しますか?
事実、この時は非常に食料に困っており、YESを選択してしまいました。しかしこれは、ある程度客観的に見れば「悪」だったのでしょう…主人公の精神状態が1段階悪化してしまいました。しかし、自分の命と他人の命という、本来天秤にかかることのないものが、この異常事態では簡単に比較できてしまいます。
もちろん自分が手を下すばかりではありません。シェルターを資材を使って補強しておいたり、武器を所有していなければ、やがて夜間に強盗に入られるでしょう。この場合も食料を奪われたり、仲間が傷を負ったりします。
このゲームの怖さ
事実、非常に理不尽な話ですが、まともなことだけをしていると生き残れる可能性は減少すると思います。戦争が長引くと、徐々にプレイヤーの心にも善悪の判断がつかなくなってきます──
いや、そもそも善とか悪ってなんなんでしょうね。異常事態であることは明らかであり、明日骨になるともわからないのに、善悪の判断などする意味があるのでしょうか。
この葛藤はもちろんゲーム内のキャラクターにも反映されていきます。無抵抗な人々から物を奪ったり(実際に私は、老夫婦の家から強奪しました)、あるいは殺したりすれば、鬱状態となります。その状態を放置すると失踪・自殺に追い込まれることもあります。
さらに仲間が死亡すれば、残された人間もまた鬱状態まで落ち込むことがあります。しかしその事実に対しても、「自分でなくてよかった」とか「口減らしができた」とか……そういう、普通に生きていたら考えもしないようなことまでプレイヤーの頭に浮かんできます。
昔心理学か何かで、囚人役と監守役に分かれて刑務所のような生活をさせてみたところ、本当の囚人や監守のようにふるまい始め、非常に危険だということで中止されたという実験がありました。(スタンフォード監獄実験)
本当にそのような感じで、プレイヤー自信が触れているわけではないこの戦争を疑似体験しているだけであるのに、本当に自分が異常な心理状態になっているかのように感じられました。非常に怖いです。
感想
1回目のプレイでは、結局13日間で仲間全員が死亡して終了してしまいました。これがどれほど良いのかは分かりませんが、ここまでの感想を述べたいと思います。
最初はプレイが目新しく、何を作ろうかなーなんて頭カラッポで考えていると楽しいですが、すぐに得も言われぬ怖さに襲われました。
普通ゲームといえば、最終的にはゲームのあらゆる機能が使用可能になるものですが、このゲームではそんなことはありません。必要なものであっても、もっと必要なものを得るために交換に出したり、物資が足りないために作成をあきらめたり……あるいは隣人から奪うこともできるでしょう。そのために人を殺めてしまうこともあり得ます。
何より、その1手1手が取り返しのつかない選択であるということが、さらに重い。ゲーム的に取り返しがつかないという意味もありますが、それ以上に、自分の心がすさんでいく気がしてなりません。普段の生活では到底頭に思い浮かばないような犯罪を実行に移してしまいます。
それが戦争というものなのかもしれません。プレイすることによって、豊かな物資のある生活をしている我々に理解できないような心理状態に陥ってしまいそうです。しかもそれがグラフィックやミュージックの不気味さ、冷たさによって、より一層深くなります。
争うことが何故怖いのかというと、財産、家、命を失うから……いや、一番怖いのは、被害者であったはずの人間が次は加害者となってしまうということなのかもしれません。自分は加害者にはならないと思っているならば、是非プレイを。そのような希望など容易く打ち砕かれるでしょう。
決してこれは「楽しいゲーム」ではありません。我々に容赦なくメッセージを突きつけてきます。
終わりに
このようなゲームが、PC、iPadのみならずiPhoneまでプレイ可能となるとは素晴らしいことです。
ただし、上の感想をお読みいただいてもうお分かりかと思いますが、「遊べる」ゲームではありません。ただ苦しい選択が毎日のように続き、希望を徐々に失っていく。
もちろんプレイに慣れれば全員生きたまま戦争終結、ということも可能であるようですが、そもそもプレイに慣れるということは良いことなのかどうか、という非常に不思議な疑問が生まれてしまいます。
深いメッセージ性に気づきたい、今までにないような体験がしたいという方は是非ともプレイしていただきたいゲームでした。