説明不要かと思いますが、任天堂が初めて本格的にスマホゲームとして発表した「Super Mario Run」が12月15日配信開始しました。
当然知らない者のいない安定した人気シリーズということもあり、一定のクオリティを持つだろうという信頼度が高かったのですが、開始早々、コンテンツの提供方法で割とコケ気味のように見えます。この記事ではその部分を詳しく見ていきます。
ゲーム内容
マリオがクッパを倒してピーチを助けるという、いい意味でお約束の展開で始まります。画像は64を彷彿とさせられていいよね。
率直にゲームそのものの感想を言えば、「ちゃんとマリオだ」。なんとかGOとは根本的に違いますね。マリオがジャンプし、変身し、坂を滑り、という多彩なアクションでステージを進む姿はコンソールでプレイするマリオと遜色ありません。
モバイル向けに移植したものだとバーチャルパッド(十字キーなどのボタンを画面に表示する)を導入しがちですが、単純にそれをせず、マリオは常に右向きで進み、行う操作は画面タップのみというシンプルなもの。
これには配信前から賛否両論ありましたが、新アクションが導入されたこと、カラーコインという集めものの難易度がそこそこ高いこともあり、個人的には大して気になることではありませんでした。最高難易度のブラックコイン集めはなかなかチャレンジングです。
そういうことで、ゲームそのものの感想としては「十分遊べるマリオ」であり、悪くないといったところかと思います。あとはそれをどう提供・運営していくかというところなんですが……。
課金システム
ユーザーの意識との乖離
そういうことで、ゲーム内容はやはり任天堂クオリティと言っていいと思うのですが、この記事で問題にしたいのはコンテンツの提供方法(課金システム)とユーザーの意識の乖離があるということです。
課金システムはいわゆる「買い切り制」。アプリ自体は無料でダウンロード可能ですが、無課金では遊べるステージが3つのみです。全部で24ステージありますが、1200円の課金をすればまとめて開放。それ以外に課金は一切ありません。
つまり任天堂としては、「これはもともと1200円のゲームだが、体験版として3ステージプレイ可能にしている」と考えているのだと思います。これは自社のオンライン販売(ニンテンドーeショップ)でよくやる方法ですし、特に疑問を持っていないはずです(※)。
しかし今のAppStoreの無料ゲームのユーザー、すなわちフリーミアムモデル(無料で全コンテンツがプレイできるものの、無課金だと何かしらの制限がかかる方式のことを言っています)に慣れたユーザーからしてみれば、これには違和感を持つはずですよね。
私は本来、ゲームというものはお金を払ってプレイするものだとは思うので、任天堂の考えに違和感があるわけではありません。しかしゲーム制作の在り方が多様化する現在においては、その常識を崩すことに挑戦する企業が出るのも当然ですし、実際それに成功しているからこそ違和感を持たれるわけです。いずれにしろそれが主流になりつつある現在、逆行するのは簡単なことではないでしょう。
※1200円という価格設定に関して言えば、非常に妥当だと思います。価格を4倍、ステージ数を4倍にすれば普通のマリオと同じ程度でしょうし。ただモバイル市場の大きさも踏まえ、頑張って600円程度にするという戦略もアリなのではと思いますが……。
**
しかし一度の課金のみで済むということは本来はユーザーフレンドリーであるはずで、これが逆効果となってしまうということは悲しくもあり同情します。せめて無料分を「体験版」、ワールド購入を「フルバージョン購入」などと言い換えれば、この誤解は起こりにくいかと思うのですが……。どうなんでしょうか。
「キノピオラリー」モードのプレイ回数
実は問題はもう1つあります。「キノピオラリー」モードのプレイ回数に制限があることです。
キノピオラリーモードは他のプレイヤーのゴーストと対戦するのが趣旨ですが、カッコいいアクションを決めると声援が出たり、コインラッシュモードで大量にコインをゲットしたりと、通常のステージクリアをするモードよりもずっと気持ちがよく面白いモードでもあります。
このモードに参加するにはチケットが1枚必要なのですが、実はこのチケットの入手方法が非常に限られています。
前述のワールド購入でも20枚入手可能ですが、当然一度しか購入できません。ステージにある「カラーコイン」を集めれば各ステージ6枚ずつ、合計144枚入手できますが、これも当然一度しか入手できません。
これらを使い切ってしまうと、あとは「ボーナスゲームの館」か「ハテナブロック」を王国に設置して使用するか、ミッションをクリアしてポイントを貯めるしかありません。こっちは時間で無制限に入手できるのですが、これはこれで問題があるので見てください。
ボーナスゲームの館
8時間に1回プレイできます。好きなドアを選んで進んでいき、宝箱にチケットが入っている……可能性があるというものです。(画像は撮影タイミングのミスで、実際は2つの宝箱にチケットが入っていました。ただし引いたのはハズレ。)
つまりチケットを入手できるのは完全に運で、おそらく確率は1/2です。すなわち実質16時間に1枚ということであり、他のゲームのスタミナ回復と比較しても非常に遅いでしょう。
加えてせっかく8時間待ったのにハズれたときのガッカリ感が無視できないというのも特徴。このようなシステムにするメリットがよくわかりません。
ハテナブロック
タップするとチケットなどのアイテムが出るそうです。無課金だとどうやっても入手条件を満たせない(※)ため、時間間隔はわかりません。こちらもチケット以外が出る(たぶんコイン)とのことなので、結局運が絡んでしまいます。
コインは無制限に遊べる普通のステージクリアモードで好きなだけ入手できるので、実質ハズレ。
※まずワールド購入で1個もらえます。さらに入手するにはキノピオを数種類入手する必要がありますが、そのためには「キノピオラリー」のコースを増やさなければなりません。これには多くのステージをクリアしておかなければならず、3ステージしかプレイできない無課金では不可能ということになります。
ミッション
いくつかのミッションをクリアするとポイントがもらえ、それとチケットを交換できます(アカウント連携が必要)。
しかし、何度もクリア可能なものは「1日1回、キノピオラリーをプレイする(10ポイント)」と「1週間に3回、キノピオラリーで勝利する(50ポイント)」のみです。すなわち1週間でもらえるのは最大120ポイントです。
対してチケット5枚の価格が150ポイント。よって、マリオランでのミッションでは1週間で最大チケットを4枚しかもらえないことになります。チケット1枚のプレイ時間は2分弱で、それに対してこの頻度は少なすぎるだろう……。
ただしこのポイントはマリオラン以外でも取得可能であるようです。しかし、すべてのコンテンツをまんべんなく遊ぶことを考えた場合、マリオランで貯めたポイントでマリオランのチケットを購入するのが普通だろうと思い、それに限定して計算しています。あとリアルマネーでの購入はできないらしい(重要)。
**
以上の入手方法がありますが、そのいずれも入手枚数は少ないです。
無料でプレイするつもりなら確かにそれは仕方ないでしょうが、課金してもいいと考えている人に課金方法を与えていないことは、不快感を与えてしまうのは間違いない。
任天堂のゲームを普段からプレイしているなら、ポイントを貯めてマリオランに集約するということも可能でしょう。しかしモバイル向けにゲームを提供している時点で、任天堂の腕の外にいるプレイヤーを取り込もうという意図があるはずです。その意図と実際の仕様が矛盾していると言わざるを得ません。
総括
以上のように、課金システムが買い切りのみである点でどうしても問題がいくつか出てしまっていると思います。せっかくゲーム内容は本来のマリオに近いものをよくモバイルで再現したという感じで好感触であり、1200円という価格設定自体も妥当なのに、大変もったいないです。
幸いブランド力を考えるとすぐに危なくなってしまうこともないと思いますので、地道にユーザーの行動を見ながら、現在のモバイル市場に合った課金方式ないしコンテンツの提供方法を考えていくことが課題でしょう。
開発元が違うとはいえ、失敗という烙印を押され始めているやつがすでにあるのですから……(黄色いネズミを細い目で見ながら)